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神経疾患動物の姿勢制御メカニズム

歩行や直立を行う制御系が、神経系においてどのように構成されているかを明らかにし、 それによって神経疾患に伴う運動機能不全のメカニズムの解明と治療へとつなげる研究です。
これまでに、

  • 下図のようにラットに直立をさせて、姿勢保持動作を詳細に計測する実験系を提案しました。
  • 計測した動作を基に、運動戦略の評価と、力学モデルを基にした姿勢制御パラメータの同定を行うことで、ラットとヒトの2 足直立動作に同様の制御構造が存在することを示しました。
  • 小脳障害を持つラットの姿勢制御系の評価をこの実験系で行うことで、小脳疾患患者と同様のカオス的な不安定性が現れることを示しました。 

制御系と神経系の両面を同時に定量評価できるという本実験系の特徴から、本研究は神経障害のメカニズムへの詳細なアプローチにつながると考えています。


論文:T Funato, et al., PLoS One, 2017.

本研究では、ラットに長期間の2足直立状態を維持させて運動を計測し、ラットの姿勢制御の性質を調べる実験環境を構築した。ラットが2足直立を行う時、身体は不安定な状態になるため、その姿勢を保つために常に姿勢制御が働くことになる。従って、その時の動作を計測することで、動きから姿勢制御の特徴を調べることが可能になる。研究の結果、3分以上の定常状態の直立動作の計測が可能となり、ラットを使った姿勢制御へのアプローチ手法が構築された。論文では、さらに計測した動作に対して運動の周波数と関節間の協調動作を導出する解析を行い、それぞれの特徴にヒトの2足直立動作と同様の性質があることを示した。

脊髄小脳変性症やパーキンソン病のように、脳に疾患がおきると、筋肉などに変化がなくても、直立や歩行が困難になることが知られている。このような患者の直立中の重心や関節の動きは疾患に応じて健常者との間に特徴的な違いがあることから、患者の運動を計測して、機能性の観点から脳が姿勢を保つ仕組み(及び疾患が姿勢維持機能に障害を起こす仕組み)を調べる試みが行われてきた。一方で患者の計測では疾患が生じている脳部位やその特徴、そして扱える手法に制約があり、姿勢のメカニズムを説き明かすにあたって、ヒトの運動計測だけでは不十分な点があった。本研究はラットを用いた脳と運動機能障害へのアプローチを可能にし、脳と疾患のメカニズムを解き明かす有効な手法になると期待できる。


本研究の一部は、学研究費補助金(基盤研究B 26289063 及び 新学術領域研究 15H01660)の補助により行っています.