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歩行のリズム制御

ヒトや動物は歩行中に、外乱によって運動が乱れた時に、歩行のリズムをうまく調整して安定な運動を保つことが知られています。このような歩行リズムの調整(phase reset) がどのタイミングでどの程度生じているかを定量的に評価する新しい方法を提案しています。

提案手法を使ったこれまでの研究で、ヒトが「接地時刻」と「片足支持期の中期」の 2つのタイミングで歩行運動のリズムを調整していることを定量的に示しました。


論文:T Funato, et al., PLoS Computational Biology, 2016.

歩行の力学シミュレーションを用いた(共同) 研究により, 接地のタイミングで運動を調整すると、歩行の安定性が向上することを示していた(Aoi, Ogihara, Funato, et al., BiolCybern, 2010). このようなリズム調整が実際の動物で行われていると考える根拠として, 歩行中の電気刺激や物理刺激に対する反射系の存在が示されていた. 一方で, このような反射系が運動にどのように影響するか, といった問題は未解決だった. 具体的には, 接地などの歩行中のイベントで, 運動がどのように変化するかわからないという問題であり, 上記シミュレーションを行う上でも課題となっていた. 本研究では、リズムの性質を調べる新しい方法として, 外乱の入れ方に特徴を持つWSTA 法という方法を初めて導入した. この方法を用いてヒトの歩行解析を行うことで, 精度の高い推定が可能となり, 運動からリズム調整の性質を調べることが可能となった.本研究の結果は2 つの方向で有用な見通しを与えると考えている. 一つは, 提案手法がヒトの歩行運動のリズム調整量を定量的に示すことから, 歩行の制御則に関わる定量的な指針を与えられるという点である. このことは, 高い適応性を持つヒトの運動メカニズムを人工物へ応用する上で有効な情報を与える可能性がある. もう一つは医療への応用である. 例えば、神経疾患によって運動機能が低下したとき, 歩行のどのような機能がどの程度影響を受けているかが, 提案手法によって評価できるようになる. このことによって, 将来的に病気の解明とアシスト機器の開発などにつながる研究が可能と考えている.