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ヒトの姿勢制御メカニズム

ヒトは2 足で直立しているとき、体は完全には静止せず、常に微少に揺れています。このとき、立っている床面を柔らかくして、安定性を下げてやると、この揺れの大きさが明らかに大きくなっていきます。このような現象が生じる理由を明らかにするために、ヒトの直立の数理モデルを使って、ヒトの姿勢制御にどのようなメカニズムがあると、この現象が起きるのかを調べました。

ヒトの直立動作の計測と、数理モデルとを比較して評価することで、ヒトの2 足直立中の安定状態に、「静止状態」(ノイズによって揺れている状態) と「リズム運動」(積極的に前後に揺れる状態)という2 つの動作があることを示しました。また、床のやわらかさが一定に達したときに, 「静止状態」から「リズム運動」へと運動戦略を変化していることを示しました。


論文:T Funato, et al., Royal Society Open Science, 2016. 

一般に運動状態の変化には(直立と歩行の間のように) 非連続的な運動変化がみられる。一方で、観察される直立運動には、不連続的な運動変化は見られない(揺れの大きさが床の柔らかさによって突然変化することはない) という特徴がある。我々はこの現象のポイントがノイズにあると考えた。直立運動には脈拍などの身体活動によって生じるノイズが常に影響し、静止状態での揺れを生じる。本研究では、数理解析及び実験において、ノイズの影響を定量的に評価することで、連続な運動変化がノイズの作用によって生じることを明らかにした。この研究は2 つの見通しを与えると考えられる。1 つ目は生物の制御系の戦略である。生物の制御は安定性より、多様性を重視していると指摘されている。本研究で示した制御系の性質は、安定から不安定への状態変化が容易に生じ、それがそのままリズム運動の生成へと切り替わる多様性を重視した戦略であることを示している。2 つ目はこの多様性が説明しうる運動変化の性質である。神経疾患などの影響で、制御系に変化が生じると、動作にはその疾患に特有の変化が現れる。提案したモデルは制御系・環境などの状態に応じて多様な動作を生み出す構造をしており、このような(神経疾患のメカニズムの解明へとつながる) 制御系の変化と動作の関係を説明できる可能性を持っている。

 


本研究の一部は、学研究費補助金(基盤研究B 26289063 及び 新学術領域研究 15H01660)の補助により行っています.